概要

「自分の普段の行動は大丈夫だろうか?」と自身の行為を振り返り、不十分な点に気が付くことが事故防止の第一歩となります。また、過去に起こった事故・災害事例を対岸の火事とせず、他山の石とすることも大切でしょう。以下では交通安全教育を中心にこれまでの取り組みを紹介していますが、本研究室では社会人院生を中心に様々な領域での安全教育プログラムの試作・実施・効果評価を進めています。

運転技能に関する過信傾向の修正

運転技能に対する自己評価の過信傾向の実態とその弊害について、一般ドライバーを対象とした実車実験を行いました。教習所指導員が同乗した状態で走行課題を行ってもらい、その後に自己評価を指導員評価と比較したところ、後退時のハンドル操作については謙遜するドライバーも多いのですが、全体的にドライバーの自己評価は指導員評価を上回っていました(特に高齢ドライバーでこの傾向が顕著)。この研究を活用し、あるバス事業者での研修で、自己評価の過大評価を修正するための内容を組み込んでいただきました。

安全運転のための感情コントロール

交通安全の実現のためには運転スキルの維持向上のみならず、感情コントロールも重要と考えられます。焦りや怒りのようなネガティブ感情は安全運転にとって好ましくないため、平常心を保つことが事故防止に必要となりますが、従来の交通安全教育ではそのような感情面の教育は十分に行われていません。「あおり運転」が社会的関心を集めたことをきっかけに、もともとはバス事業者に提案していた「安全運転のための感情コントロール教育」をベースにして、一般ドライバー向けの感情コントロールに関する教材を作成しました。また、ネガティブな感情の制御が事故防止に繋がるという考え方は、交通安全以外の領域でも関心を呼び、医療従事者向けの教材も試作しました。

現在は、通り慣れた道路における記憶に注目し、例えば一時停止標識を覚えている場所と覚えていない場所で何が違っているのか、また記憶の差を家族や職場で共有することが安全教育になるのではないかと考え、研究を進めています。

関連する主な研究業績

  • 中井 宏(2020). 安全のための感情コントロール教育: 交通心理学の知見を医療安全に活かす. 病院安全教育, 8, 66-73.
  • 中井 宏・小川和久 (2014). バス乗務員の心理的ストレス反応の構造── 感情コントロール教育のために──. 心理学研究, 85(4), 373-382.